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続編 第四章 相思相愛3

last update 最終更新日: 2025-01-19 18:11:05

仕事をしながらふと窓を見ると、ずいぶん空が近くなった気がした。

もう、九月。

寒くなってきたなぁ。

明日は大くんが休みの日だ。

さっきメールが来てご飯を作らなくていいと言われた。

一緒にお出かけしてくれるのかな。ちょっと期待しちゃう。

仕事を終えて家に帰ると、大くんは珍しく六時に帰って来た。

「お帰りなさい」

玄関まで迎えに行くと、大くんは満面の笑みを浮かべている。

いつものように私のことを抱きしめてキスした。唇が重なると幸せな気持ちになる。そしてうっとりとして体の力が抜けそうになるのだ。

「美羽、温泉行こう」

「はい?」

あまりにも突然言われてきょとんとしてしまう。

いつ、どこの温泉に行こうとしているのだろうか。

「これから車で行く、いいだろ?」

「何も準備してないけど」

「手ぶらでいいよ」

そう言うから着替えを準備しただけで、他は何も持たず外へ出た。

数分後、私と大くんは車に乗っていた。

大くんの運転する車。ラジオを流しながらどんどん進んでいく。

突然でびっくりしたけれど、こうやって連れて行ってくれるのは嬉しい。

「予約とか……いつから、してたの?」

「んー、今日。紹介してもらって、たまたま空いてたから。全部で九部屋しかなくて全室露天風呂付きなんだって」

けろっと言っているけど高級そう。

まあ、大くんの財力であれば問題ないだろうけど、心配になる。

でも、大くんは私を喜ばせようとして考えてくれたことだ。

素直に感謝することにしよう。

到着した旅館は歴史がありそうで落ち着いた雰囲気だった。こんなところに泊まったことがないから怖気ついてしまう。

着物を身につけた女将さんが丁寧にお出迎えしてくださった。

部屋に入ると和室で低めのベッドが用意されていた。

あずき色の布団カバーに、落ち着いた照明でいい感じだ。露天風呂まである。

テンションが上がっていく。

窓から見える景色は大自然。

「大くん、すごい!」

「美羽が喜んでくれて嬉しいよ」

後ろから抱きしめてくれる。

その腕をぎゅっとつかんで大くんの体温を感じていた。

「大くん……」

「美羽、愛してる」

大くんからの「愛してる」の言葉は魔法の言葉。顔が熱くなって力が抜けてしまう。

このままベッドに行きたい。

そう思った時、コンコンとノックが鳴った。

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    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

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